やっと夏期講習も終わり、少々時間が空いたので、今日は智恵子さんのお兄さんに電話をしました。もうすぐ一周忌になるため、その相談です。
私はこのお兄さんが苦手でした。智恵子さんのお父さんはすでに亡くなっていますし、若い頃からこのお兄さんが親がわりでした。
私にとっては、お嫁さんのお父さんのような存在です。たぶん、どの男性も、自分の奥さんの父親は、最初は苦手なのではないかと思います。
そんなお兄さんとも、まあまあふつうに話せるようになりました。私はどうも人とつきあうことが苦手で今でも得意とは言えません。そんな私も、最近は知らない人でも気安く話ができるようになりました。
塾の先生というと、みんな尊敬のまなざしで見てくれるし、保護者の方もちやほやしてほめてくださるので、なんとなく大人になったような気分になります。時には錯覚して、自分が偉い人間のように見えることもあります。
しかし、長い間塾の先生の社会の中にいるとわかってくるのですが、塾の先生は、実は人づきあいが下手な人が多いなあと感じます。この前、名古屋に行って、違う塾の先生の話を聞いたり、講演会などで、他の塾の先生の話を聞いたりしたとき、「同じ臭い」を感じました。「匂い」という漢字ではなく、「臭い」という漢字を使っているところがポイントです。
過去を振り返ると、人と人のつきあいで、上手くいったほうが少なく、どの場所でも、どの学校でも、どの養護施設でも、どの職場でも、どの塾でも、何かしらのトラブルを起こしていました。
どうすれば、そのトラブルが起こらないのか、トラブルが起こらないために、言いたいことをぐっと我慢することがいいのか、それとも、言いたいことは素直に言ったほうがいいのか。人とのつきあいで、悩み、苦悩して、かといって成長したかと思えば、相変わらず同じようなトラブルを起こす。その繰り返しでした。今でもそうです。
思えば、智恵子さんもトラブルメーカーで、行く先々でトラブルを巻き起こし、私とそっくりな性格をしています。だから話が合ったのでしょうか。
智恵子さんとよく話したのは、「相手に言いたいことを言うべきなのか」「言わずに我慢したほうがよいのか」という、人づきあいが苦手な人らしい話題で議論(恋人同士の会話でなく、まさに議論)になることが多かったのです。
この前、何かの機会に、「言いたいことを直接言えるのは、松田さんくらいですよ」と言われたことがありました。ホントかなあ。私も実は言いたいことを半分も言っていない。何かスイッチが入り、テンションが高くなったときだけ、やっと言いたいことの半分が言えるくらいです。
智恵子さんは結構言いたいことを直接言っていたなあ。だから敵も多かったみたい。今回の葬式などで、智恵子さんがいた東京の職場や東京の透析センターの人と話す機会が何回かありました。
その中で、「智恵子さんは、はっきり言いたいことを言う人だったけれど、そのおかげで解決した問題も多く、みんなの記憶に強く残っている」ということを言う人が多く、彼女らしいなあと思ったものです。
こんな話もしました。「グループの中で、孤立してしまったら、松田くんはどうする」
「まあ一人でがんばるか、少ない味方とチマチマやることになるのかなあ。でもそういうときは、あまり大きなことはできないよね」
「そうそう、結局大きな仕事はできない。でもなかなかその壁は破れないものだよね」
「いったん嫌いと思ってしまうと、その人のどんな仕草もダメになって、その人と仕事をしようとする気にならないってやつだよね」
「そういうときはどうしているの」
「やりたいことにもよるかなあ。自分がどうしてもやりたいことだったら、気に入らないやつも巻き込んで、協力させてしまうとか。本気でその仕事をやりたいなら、チマチマ気のいい仲間どうしでやってもダメだね。違う色の人とぶつかったほうがいいものができる」
「でもそれはいつもできるというわけではないよね」
「うん、それには、相当テンションを高めて、『自分が本当にやりたいからやり抜くのだ』くらいに自分自身を律することができないとダメだね。自分の感情をコントロールする強い意志があるときでないと無理」
「仲直りすることは考えないの」
「根本的に混じり合うことはつらいかなあ。でも、言いたいことを直接言えれば、多少は解決するところもある」
「そこが私たちみたいな性格していると難しいねえ」
「同感。そんなに人に好かれるほうじゃないし」
「言いたいことを言っちゃう率は私のほうが勝っていると思うけど、強い意志の部分はちょっと負けるかなあ」
「うん、その食事療法とか見ているとわかるよ」
「…(ちょっとムッとする)…」
智恵子さんの一周忌を前に誓うことは、たとえ子供っぽくてもいいから、言いたいことはその人に直接言おう。あまり大人の枠にしばられないようにしよう。
まわりにそんな感じで悩んでいる人がいたら、当事者に直接ぶつけるくらいの勇気を持とう。言いたいことをきちんと言えたら、結果がどうあれ、後悔しないようにしよう。
早く動こう。あまりまわりの動きや評判にとらわれず、自分の気持ちを優先させよう。人が動いてくれるのを待つのではなく、失敗してもまず自分から動こう。
と、ますます人づきあいの下手な方向に流れて、智恵子さんに近くなっていく私でした。
光の泉本校校長 松田 一哉